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日常2020.12.17

瀧来の読書 『ノルウェイの森』

皆さん、こんにちはクリエイティブ制作部の瀧来です。

先輩である吉野さんのシリーズをお借りして、「瀧来の読書」を書かせていただこうと思います。私も読書が好きです。(というと言葉が過ぎます)小さい頃はよく本を読んでいたなあと思う反面、最近はNetflixやYouTubeなんかに時間がとられてしまい、全く読めていないのが現実です。親に早く寝ろと言われても本の続きが気になり、隠れて懐中電灯の明かりで読んだりもしていました。あの読書熱が今でも続いていたらと思うととても残念です…。あの頃は何者にもなれた気がします。まだ見ぬ世界や将来に心をときめかせ、無限の可能性に溢れていました。けれど大人になるとどうでしょう、若さを段々と溶かし、様々な経験が増え、慣れた結果、感動も減ってしまいました。読書はそんな、何にでもなれた「天才」だった頃の自分に戻れる体験なのかもしれません。このブログ執筆の機会に改めてある一冊を読了しました。やっぱり紙をめくる感覚が好きです。僕は好きだと思った本を繰り返し読むタイプなので、だんだんとめくる位置の紙が弱ってくると、ああこんなに読んだのかぁと実感する瞬間も好きです。

村上春樹 『ノルウェイの森』

今回ご紹介するのは、僕を形成していると言っても過言ではない…個人的にはそう思っている小説です。その後の人生のターニングポイントならぬターニングブックになりました。誰かにオススメない?と聞かれたら大抵この本を押し売りします。

その本は

村上春樹著「ノルウェイの森」1987年講談社

です。こんな長い前フリを述べて村上春樹かよと思われるかもしれません。その通りです。ごめんなさい…。ミーハーな作品と言われても返す言葉もありません…ただ、この「ノルウェイの森」がたまたま僕の心を掴み、離さなかったのです。この作品、映画化もされています。外国の方が監督をされていて、作品の持つどこか掴み所のない、モヤッとした雰囲気をうまく映像化されていたのではないかなと思います。映像化された作品については賛否あるみたいですが、あれはあれで良いのではないかなと個人的には思います。完全燃焼ではなかったのでリメイクは望んでいますが。

初めてこの小説に触れたのは、小学校3年生の時でした。当時はよくわからないという印象であったのを覚えています。今思えば村上春樹特有の雰囲気というか、小難しい表現が理解出来ませんでした。けれどなんだかこの本好きだな、とも思ったのを覚えています。今思えば、繊細な表現と美しい比喩、そして独特の言い回しと世界観だったと気がつきます。

それからというもの、小学5年生、中学1年生、中3、高2と2年ごとに読み返していました。すると、読むたびに感じ方であったり、あらゆる表現の飲み込み方が変わっていました。読んでいる本は変わらないのに、違った感想を持つことが出来たのです。「ノルウェイの森」が自分自身の内面的な成長を体感させてくれたのです。成長期でもあり、思春期の学生時代に内面が成長するのは至極当然のことですが、身をもって成長を体感出来たことがとても嬉しかったのです。この先でネタバレを含んだあらすじをご紹介していますので、苦手な方は大変申し訳ございません…。

あらすじ

「ノルウェイの森」について、さらっとあらすじをご紹介します。なにぶん長編小説なので、少し長くなってしまいそうですがお付き合いください。このあらすじを書くにあたって、結末を書くべきなのか、しきりに悩みました。本来、物語への興味を掻き立てるものであって、かいつまんだストーリーになってはいけないかなとも感じました。でも多分、この本の本質は成り行きではなく、結末に至るまでの主人公の紆余曲折であったり、魅力的な登場人物とのやりとりかなと思ったのと、序盤で察しはついてしまうので、書くことにしました。これから読もうと思ってくださっている方で、結末知りたくないよ、という方は次の段落まで飛ばして読んでくださると嬉しいです。

冒頭は38歳になった主人公「ワタナベ」が、ビートルズの「ノルウェイの森」を聴いたことがきっかけで、若い頃の様々な物語を回想します。舞台は1968年から1970年にかけて、この頃は学生運動が盛んで多くの学生が大人や社会に対して言いようのない怒りをぶつけていた時代でした。主人公は、高校で「キザキ」と「直子」と親友になります。キザキと直子は恋人関係にあり、物心着く頃からの仲でした。高校3年の春キザキが自殺をしてしまいます。しばらくして突然再会したワタナベと直子は互いに惹かれていきます。そんな矢先、元々精神が強くなかった直子は心を病んで山奥の療養所に入ります。大学生になっていたワタナベは自由奔放な性格の「緑」と大学で出会い、関係を深めていきます。緑にも彼氏がおり、お互いがそれぞれの悩みや葛藤を抱きながら関係を深めていきます。やがて直子は回復と悪化を繰り返し、ワタナベは緑の好意を感じますが、直子のこともあり関係を結ぶことを保留します。晩夏のある日直子は自ら命を断ちます。悲しみにくれるワタナベは1ヶ月当てのない旅に出ます。旅から戻ると直子と同部屋で世話を焼いてくれた「レイコ」から手紙が来ます。レイコも昔に負った心の傷が原因で何年にも渡り療養所で暮らしていました。ワタナベはレイコと2人で、直子の葬式をやり直します。新たな人生を進み出したレイコを見送り、ワタナベは関係を保留していた緑に全てをゼロからやり直そうと電話をかけます。
といったのがあらすじです。あらすじでは伝わりづらいですが、全編を通して、死と男女の関係がメインテーマとなります。様々な人との出会いと別れを通して生きるとはなんなのか、人と人とが知り合い、そして別れていく理が刹那的に描かれています。個人的見解ですが、答えのない人生の歩み方を考えさせてくれる小説であると思っています。レイコと直子のお葬式をやり直すシーンはとても素敵で、そこにも是非注目していただきたいです。

繊細な表現たち

そんなノルウェイの森は村上春樹特有の、情景を丁寧に描く描写が数多く登場します。そんな美しい表現たちの、”瀧来的ランキングトップ3”をランキングしましたので、ご紹介します。

第3位【暗い井戸の中を表した表現】

世の中のあらゆる種類の暗黒を煮つめたような濃密な暗黒が詰まっている。

第2位【悲しみにくれ、虚無感を感じて死んだ親友に語りかけるシーン】

ときどき俺は自分が博物館の管理人になったような気がするよ。誰一人訪れるものもないがらんとした博物館でね、おれはおれ自身のためにそこの管理をしているんだ。

第1位【記憶の中の草原を想起するシーン】

何日かつづいたやわらかな雨に夏のあいだのほこりをすっかり洗い流された山肌は深く鮮やかな青みをたたえ、10月の風はすすきの方あちこちで揺らせ、細長い雲が凍りつくような青い天頂にぴたりと張り付いていた。空は高く、じっと見ていると目が痛くなるほどだった。風は草原をわたり、彼女の髪をかすかに揺らせて雑木林に抜けていった。梢の葉がさらさらと音を立て、遠くの方で犬の鳴く声が聞こえた。

いかがでしょうか。暗さだったり、虚無感、ただの草原でさえリアルにイメージできるのではないでしょうか。村上春樹は回りくどいなんて言葉もよく聞かれますが、美しく言葉を修飾した表現が心にストレートに届く感じがするのです。

個人的ベストセリフ

本作では、身近な者の「死」という究極の体験が何度も登場します。これは答えのない永遠の未知であり、主人公が悲しみながらも、別れを飲み込むシーンは誰もが自身の境遇と当てはめ、共感してしまうのではないかと感じます。その主人公が悲しみを飲み込み、生きると決意した際のセリフをご紹介します。これは本作で僕が一番好きなセリフです。セリフを一部抜き出したところで、流れや文脈ありきではあるので、是非物語を通してこのセリフに触れて頂きたいなと思います。

どのような真理をもってしても愛するものを亡くした哀しみを癒すことはできないのだ。どのような真理も、どのような誠実さも、どのような強さも、どのような優しさも、その哀しみを癒すことはできないのだ。我々はその哀しみを哀しみ抜いて、そこから何かを学びとることしかできないし、そしてその学びとった何かも、次にやってくる予期せぬ哀しみに対しては何の役にも立たないのだ。

最後に

いかがでしたでしょうか。個人的にはまだまだ語り足りないことだらけで、とても不完全燃焼ではあります…。本作は、男女の関係と死をテーマにしているにも関わらず、前向きな心持ちにさせてくれる所が気に入っています。

最後に本作の僕の捉え方を述べたいと思います。
「生きることと死ぬこと」この究極の選択においてワタナベの周りでは死ばかりが選ばれています。ワタナベ自身はそんな人々との別れを繰り返してその度に生きることを決意していくのです。そこには生きることでの、死んでいった人々への反発のようなものを感じました。生きることを選んだ方がその場は辛くても、その先の未来はきっと良い方向へ向かうんだという主張でもあります。生の象徴とも思える緑と関わることでワタナベは生きることへの活路を見出し、その先の幸せを手探りで探しているのだと捉えています。そんな苦しいながらも茨の道を這ってでも歩もうとする主人公のひたむきさに心を打たれます。とはいえ、令和を生きる我々にとっては、この物語にリアリティを感じることは難しいと感じます。けれど、人との関係性や何を思いどう動くのかの指標は本作から学びとれるのです。

様々なことを述べましたが、あくまでこれは瀧来の見解に過ぎず、それぞれの感じ方、捉え方があってしかるべきだと思います。皆さんがどう感じたか、どう思ったのか是非感想を聞いてみたいです。なかなかの長編ということもあり、語り合う相手を見つけるのが難儀だなあとつくづく思っています。是非、是非にこの年末年始に読んでくださると大変嬉しく思います。そして色んな方々の考察だったり感想がネットに流れているので、読んでみるのも楽しいかもしれません。そんな捉え方があったのかとまた違った楽しみ方ができるのではないでしょうか。僕はよく見終わった本や映画のレビューを読んで勝手にああだこうだと考えるのが大好きです。

皆様におかれましては、本年は大変な年であったかと思います。本年中そして来年の皆様のご健勝とご多幸をお祈りして最後のご挨拶とさせて頂きます。

良いお年をお迎えください。