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日常2021.07.29

「あやしい絵」をご存知ですか?

こんにちは、制作部の瀧来です。 今回は表題の「あやしい絵」についてお話しさせていただければと思います。

「あやしい」という言葉を聞いて、皆さんは何を想像されるでしょうか。怪しい、妖しい、奇しいなどいくつもの漢字を当てはめることが出来ます。広辞苑には主に、『霊妙である。普通でなく、ひきつけられる。常と異なる。めずらしい。いぶかしい。疑わしい。』などの解説がなされています。これらを見ると、非日常でありながら人を惹きつける人知れぬ引力、それが「あやしい」ではないでしょうか。

東京国立近代美術館で開催された、「あやしい絵」展ではそのような不思議な引力を持った絵の数々を集めた展覧会が行われました。実際に足を運んできましたので、展示された絵達と共に皆さんに「あやしさ」の魅力をお伝えできればと思います。ここでご紹介する全ての解釈、感想は僕個人の見解ですので、ご理解いただけますと幸いです。言われてみればそう思えるなくらいの温度感で読んでくだされば絵の良さと共に解釈の幅が広がるのではないでしょうか。
本展覧会は消毒やサーモグラフィーによる検温、ソーシャルディスタンスの確保により、十分な感染対策が施されておりました。

本展で気になったあやしい絵

女性の絵

【美人図】曾我蕭白(そがしょうはく)

この作品は江戸中期から幕末にかけて描かれた作品です。この時期は狩野派や土佐派と呼ばれる専門画家軍団が活躍した時代でもありました。狩野派は唐獅子図屏風で知られる狩野永徳などが在籍したことで、聞き馴染みがある方もいらっしゃるのではないでしょうか。そんな腕ある画家たちがひしめく時代にこの絵画は描かれています。

絵に目を向けると、ひどく破れた手紙がまず目に入ります。虚な目でボロボロの手紙を噛み締める様子はただならぬ雰囲気を感じます。素足で立つ女性の足の指はとても長く、素足の影響か爪に汚れが目立ちます。
足元から覗く真っ赤な長襦袢が、女性の悲壮感や切なさと相まって、不気味な雰囲気を醸し出しているようにも感じます。

なんとも妄想を掻き立てるこの作品は、不遇な生涯を湖で終えた中国の文人屈原(くつげん)を表しているとする説や、偽りの手紙によって女性が川に身を投げるという謡曲「藍染川」を表しているとする説など、様々な解釈が囁かれています。どの解釈を見ても運命に翻弄された人物であるという点は共通しています。
女性が噛みしめている手紙には一体何が書かれていたのか、妄想が膨らみます。

【焔】上村松園

焔(ほのお)は1918年に上村松園によって描かれた作品です。モデルは六条御息所と言われています。この六条御息所という人物、やはり不遇です…。源氏物語の主人公・光源氏の愛人であった六条御息所が、正妻の葵上に嫉妬して生霊となった姿を描いていると言われています。作者は長いスランプの中でその苦しさを表したとも語っており、辛さや焦りを表現していると考えられます。

絵に目を向けると、髪を食いしばる悲しげな表情は嫉妬と悲壮を感じさせます。異様に長い髪の毛は足元まで垂れています。しかし足は描かれておらず、生ける者ではない可能性も感じられます。着物の柄はどうでしょう、藤と蜘蛛の巣が描かれています。美しい花と蜘蛛の巣は合間見えない気がします。全ての要素が不気味な感覚を覚えます。

モデルが生き霊であると言われると納得のあやしい絵です。

【画像出典】https://media.thisisgallery.com/works/uemurashoen_02

【幻覚(踊る女)】甲斐庄楠音(かいのしょうただおと)

この作品も他の絵に負けないあやしさを醸し出しています。行灯の光に照らされた手の影は妙な生々しさを感じます。 頭部の影を見ると、角のようなものも見受けられます。果たしてこれは女性の簪の影なのか別のものの影なのか…。妄想を掻き立てる、良質なあやしい絵ではないでしょうか。 着物は不自然なほどに赤くそして滲んでいます。まるで猛る炎のようにも感じます。火の粉にも見えるさまざまな色の点は何を表しているのでしょうか。

この作品のタイトルは幻覚です。リアルな世界ではない事が前提として描かれていますが、端々で感じるこの世のものではない感覚が妙なファンタジーさを覚えさせます。踊り子の輪郭が滲ませられていることでその不自然な共存が生まれているように感じました。作者はこの幻覚を見たのか、想像の産物なのか。本当のところは今までもこれからもわかりません。

【画像出典】https://ginzamag.com/culture/ayashiie/

安珍と清姫伝説

ここからは、2枚の安珍と清姫伝説をモチーフにした絵をご紹介します。皆さんは安珍と清姫伝説をご存知でしょうか?知らない方の為に簡単に物語を説明させていただきます。

安珍清姫伝説
928年の夏、熊野に参詣に来た一人の安珍という大変美形な僧がいた。安珍は熊野詣での道すがら、ある家で一晩宿を借りる。その宿には清姫という若い娘がおり、安珍に一目惚れをする。すっかり恋に落ちた清姫は安珍に言い寄るが、安珍は修行の身であり、恋愛などはしていられない。そこで、熊野詣での帰りに立ち寄るからと騙し、参拝後は立ち寄ることなくその場を去った。

騙されたことを知った清姫は怒り、道成寺までの道の途中で追い付く。安珍は再会を喜ぶどころか別人だと嘘に嘘を重ね、更には熊野権現に助けを求め清姫を金縛りにした隙に逃げ出そうとする。そんな仕打ちをされた清姫の怒りは天を衝き、遂に蛇に化け安珍を追いつめる。

道成寺に逃げ込んだ安珍は大きな鐘の中に隠れます。しかし居場所はバレ、安珍の隠れる鐘に巻きついた清姫は鐘ごと安珍を焼き殺してしまいます。安珍を焼き殺した後、清姫は蛇の姿のまま入水します。

下記の絵は両方安珍と清姫をモチーフにして描かれています。左にある月岡芳年による和漢百物語の清姫は1865年に版画で描かれています。清姫の表情からは安珍への憎悪が感じられます。長く濡れた髪を噛み締め、垂れた髪を両手で強く握りしめています。たびたび前章からも文や髪を噛み締める仕草がありますが、悔しさを表すわかりやすい表現方法です。また、愛した人に裏切られるという展開は、日本だけに留まらず世界でも多く見られます。

橘小夢の安珍と清姫を見ると安珍を焼き殺した鐘の中で二人が寄り添っています。清姫は安らかな表情をしているのが目に止まり、安珍もどこか優しい表情をしている気がします。二人の体を蛇が強く縛り付け、清姫の離さない決意を感じます。足元では鐘を燃やした炎が踊り、消えゆく安珍の魂に清姫が寄り添っているような感覚を受けます。清姫の垂れた長い髪の毛もまるで蛇のように美しいカーブを描いています。

同じモチーフで描かれているのにも関わらず、これだけ違った表情を見られるのはとても面白いですね。伝説上の安珍の境遇はなんとも言えない理不尽な気もしますが、裏切られた清姫を思うと心が痛みます。日本各地で様々な安珍清姫伝説があり、来世で二人が結ばれる結末のものもあります。

【和漢百物語 清姫】月岡芳年

【安珍と清姫】橘小夢

【画像出典】https://ayashiie2021.jp/works/work08

発禁による幻の妖美画家、橘小夢

本展で出会った、橘小夢という画家にも少しだけ触れさせていただければと思います。
安珍清姫伝説の章で、橘小夢の作品をご紹介しましたが、この画家はとにかくあやしい絵を生前多く描いていました。その作品は妖艶で耽美なものが多く、度々発禁処分が出ていたようです。橘小夢はもともと本の挿絵を描く挿絵画家として出発しました。その後自身のスタイルでもある、和洋を融合させた甘美な絵を描くようになります。この水魔も橘小夢の作品です。この作品も発禁処分を受け、世に多く出回ることはありませんでした。

作中では、ハリーポッターに出てきそうな水魔が女性を水の中へ引き込んでいます。しかしこの絵、正しい向きなのですが、よくよく考えてみると、天地が逆さまな気がしませんか?女性はきっと水面へ上がろうともがくはずですし、手の先には水の波紋が見て取れます。太陽の影響か、下部の方が明るい気もします。しかし、足元からは水草が生え、上下の感覚が混乱してしまいます。

人生で最もあやしかった絵

ここまで、あやしい絵展で出会った、興味深い作品をご紹介してきました。
今まで趣味程度にさまざまな絵画や彫刻を見てきましたが、それらの中で一点だけ忘れようにも忘れられないあやしい作品があるのです。本展では展示されておりませんでしたが、是非ご紹介させていただきたいと思います。これまでで最も怪しかった作品は曼殊院門田跡の幽霊掛け軸です。モナリザやヴィーナスの誕生など、超がつくほどの有名な作品たちも見てきましたが、この一つの掛け軸だけは心を掴んで離しませんでした。吸い込まれるような感覚に陥り、思わず立ち止まって食い入るように見つめてしまう作品なのです。

曼殊院門跡は京都の中心地から少し離れた山の上にある寺院で、庭園が有名なお寺です。皇族も訪れていたことでも有名です。そんな由緒正しい場所になぜかその幽霊掛け軸はあります。というのも、幽霊掛け軸は最初から曼殊院にあった訳ではありません。別の方が所有していた頃に親しい人が亡くなったり、不運な出来事が起きたと言われています。そんな噂が絶えず、持ち主を転々としながら最終的にこの曼殊院に辿り着いたそうです。確かにきちんと供養のできる方でないと持て余してしまうのも頷けます。

そんな曰く付きこの幽霊掛け軸、超恐怖の但し書きが書かれています。
「”写真を撮り帰られますと、後日ご自身に差し障りな事が起こる事があります。撮影はご遠慮下さいますようお願いいたします。”」
なんと、恐ろしすぎです。もちろん写真は撮りませんでした。というか撮れませんでした…
「曼殊院 幽霊掛け軸」で検索すると画像は出てきますが、他のお寺の幽霊掛け軸も出てきたりするので、是非生で見ることをお勧めします。何より生でしか味わうことのできない不気味さがこの掛け軸にはあります。実際に見たのは5年ほど前ですが、今でもその衝撃は忘れられません。見た瞬間に立ちすくんでしまうのが恐怖からなのか、引き寄せて魅了する力があるのか、本当に不思議な掛け軸です。

最後に

いかがでしたでしょうか、あやしい絵。既にお気づきの方も多くいらっしゃるかと思いますが、女性を扱った作品が多いなという印象を受けられたのではないでしょうか。様々な理由がありますが、最も大きな理由はこれら全て描かれた作品が男性優位社会の時代であったこと、これが最も大きな要因です。当時の男性優位社会において、女性は排除されたり、不遇を強いられる事が多くありました。その影響で不遇を受けた女性の内面を絵に写すという風潮が広まり、見た目の美だけでなく、女性の内面の美しさや苦労を描き出すといった作風が多く描かれたのです。このような時代背景があり、女性を扱った作品が多く生まれたのです。

美しく楽しい絵も、もちろん魅力的です。しかしどこか影があって、不気味さを感じる絵もまた魅力的です。個人的にはそうしたアンニュイの色を持つ絵の方が好きです。完璧な物よりも少し欠けたものに愛着を感じるのは少なくないことかもしれません。
これは個人的な見解ですが、絵に限らず芸術品は作成中の時代を写し、その作者がどのような心中と意図で生み出したのか、必ず込められています。それらを知ることで、ただ鑑賞するよりもまた違った楽しみ方できるのではないでしょうか。ぜひ作品に込められた思いと隠れた裏側の背景を知って、作品を通して作者と繋がってみてください。
是非皆さんのベストオブあやしい絵を伺いたいです。

最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。