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競技かるたの魅力

2024.02.13

日常

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こんにちは、
クリエイティブ制作部の永原です。
私は普段全くスポーツ観戦などをしないのですが、年末が近づいてくると注目している大会があります。それは例年1月に滋賀県の近江神宮で開催される競技かるたの「名人位・クイーン位決定戦」です。
「名人位・クイーン位決定戦」とは、競技かるたにおいて名人が男性、クイーンが女性のそれぞれ日本一を決める戦いのことを指します。秋ごろから東日本・西日本予選と挑戦者決定戦が行われ、そこで勝ち抜いた人物と前年に名人位とクイーン位となった方が戦うというタイトル戦になります。2024年には名人が3連覇・クイーンが新クイーンとして挑戦者が勝利しています。

とはいえ、名前こそ知られどあまりメジャーな競技では無いと思います…
しかし、実は面白い世界であることを知っていただければと思い、今回は競技かるたについてご紹介していければと思います。

競技かるたとは?

学生の頃に国語の授業の一環で学校でやったことがあるという方もいるかもしれませんが、『競技かるた』とは札になった小倉百人一首の上の句から読み上げられ、その読まれたものに対応する下の句が書かれた札をいち早くとる競技になります。別名「畳の上の格闘技」とも言われ、スピードと暗記力、体力が必要となるスポーツの1つです。

そもそも小倉百人一首とは

本筋とは少しずれるので簡単にですが、そもそも小倉百人一首とは鎌倉時代初期ごろの歌人である藤原定家が編纂した歌集のようなもののことです。(後ほど後述していますが、歌集として作品に残したわけではないので、便宜的に「歌集のようなもの」という言い方をしています…)
小倉百人一首の起こりとしては、御家人から「襖に飾る歌を百首選んでほしい」と依頼されて、過去百人の歌人から一首ずつ集めたものが基となっており、京都の小倉という地で選んだから小倉百人一首と呼ばれています。あくまでも「百人から一首ずつ選んだもの」というだけであり、正式な作品名ではありません。それでもかるたという形で親しまれるようになり、一般的に百人一首といえば小倉百人一首と言われるくらいメジャーな存在になりました。

試合について

試合形式は1対1の個人戦が基本で、1回の試合が約1時間〜1時間半ほどです。読み上げられた音を聞き取ることが重要なので、試合中は基本的に私語禁止。読み上げの瞬間は鼻をすすることも咳もできません。毎回読み上げ直前に無音へと空気が変わる瞬間は、本当に独特な世界だと思います。
一般的なかるた遊びは下の句の札を散らし取り(取り札を四方に散らしてそこから取る形)で遊びますが、競技かるたの場合は相互で陣営を作りそれぞれが手持ちの下の句札を25枚並べて(1回の試合で使われる札は100枚中50枚)、そこから早く取るという戦いになります。 向かい合って自陣と敵陣に分かれ、自陣から札を取るのはもちろん敵陣から札を取れば自陣から1枚を敵陣に送ることができます。そして、お手つきをした場合には敵陣から1枚送られてきます。(例えば敵陣の札をお手つきして、自陣の札が相手に取られた際には2枚送られてくるという感じです)
最終的に、先に自陣の札を全部無くしたほうが勝ちとなります。

ちなみに、学生大会などで行われる団体戦(基本5対5)では読み上げ時以外に選手間の声かけがOKで、勝負状況の共有やそれに対する励まし、鼓舞をさくっと伝えます。
柔道などで見る「先鋒・次鋒・中堅…」のように個人戦が複数に分かれるのではなく、全員が同じタイミングで試合をするため、試合中のちょっとした作戦会議やタイムなどはありません。他のスポーツからするとチームの建て直しとかどうするの?と思われそうですが、札を取った取られたの一瞬の時間でどうにかします。ベースが個人戦なので「自分が勝つ」が基本になっており、団体戦とはいえど常に自分との戦いです。

大会について

大会形式は基本的に級位ごとのトーナメント戦で、勝ち続ければ1日に6,7試合を行います。スケジュールは試合が終わればすぐに次の試合という感じで、休憩時間が設けられているわけではないため試合の合間にちょこちょこと取るしか無く、大会の当日はかなりハードになります。そのため、試合が毎回ギリギリまで勝敗がつかないとなるとろくに休憩もなく次の試合…決勝戦が終わったのは20時だった…となることもしばしば…

また、「名人位・クイーン位決定戦」は男女別ですが、地域の大会や学生大会など一般的な大会では年齢・性別関係なく戦います。分けないことによって有利な人が出るのではないか、と言われてしまえばそうかもしれませんが、それ以上に暗記力やスピード・的確に札を取る正確性など勝因となりうる点は様々です。
むしろ、分け隔てなく戦うことができる競技は多くは無いと思うので、貴重な魅力だと感じています。

そして、書道などのように「段位」があります。時折改正が入ることはあるにしても昇段の基準が決まっており、大会に入賞することなどで昇段することができます。

級位 段位 実力による昇段基準
E -
D 初段
  • E級3位(ベスト4)入賞
  • 各会の代表者が実力相応と認める者
C 二段
  • D級3位(ベスト4)入賞
  • 各会の代表者が実力相応と認める者
B 三段
  • C級3位(ベスト4)入賞
  • 各会の代表者が実力相応と認める者
A 四段
  • B級優勝
  • B級準優勝2回
  • 各会の代表者が実力相応と認める者
五段
  • A級優勝1回
  • A級3位入賞3回
  • A級得点8点
  • A級勝数20勝
六段
  • 準名人位1回
  • 準クイーン位1回
  • 選手権優勝1回
  • 選抜戦優勝1回
  • A級優勝5回
  • A級得点40点

※まだ段位には上があり、現時点では十段まで設けられているようです。
[引用]https://www.karuta.or.jp/about/governance/rank/

競技かるたを始める前に覚えること

競技かるたを始める際に、いち早く札を取るために「決まり字」というものを覚える必要があります。
「決まり字」というのは、全百首を洗い出したときに、「読みはじめからこの文字まで読まれれば、該当する下の句札が確定する」という文字の部分を指すものです。(逆にこれさえ覚えていれば歌の全文を覚えていなくても取れてしまうという…)

一覧表はこちらになります。

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※一部現代語表記にしています

「む・す・め・ふ・さ・ほ・せ」の文字で始まる札は1枚ずつしか無いのですが、それが読まれた瞬間に下の句の札が確定するというように、頭文字が共通する札が何枚あるかでグループ分けしながら覚えるのが一般的となっています。
決まり字となるところをオレンジ色にしていますが、この直前までは同じ文字の札があるため、お手付きに気をつけなければなりません。中には六文字目まで待たないと確定しない札があるため、その間にいかに相手より早く触れる位置を取れるかが重要になってきます。

試合の流れ

まずはじめに、相手と挨拶をしたら札は相手と25首ずつに分けて、左右3段ずつに配置します。自陣は予め配置を自分のスタイルに合わせて予め決めておき、それに合わせてさくさくと置いていくことが重要です。(とはいえ一つの列が異様に長くなってしまって試合中やりにくいと判断した場合には、事前に決めていた配置とその場で変えることもあります)
また、札をこの段階で置いた後、試合中に配置を変更することは相手への妨害と自身の暗記・取りミスに繋がるためやらないようにとされています。

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ある程度配置ができたら、そこから暗記時間として15分間与えられます。15分のうち13分間はひたすら頭に叩き込み、残り2分になったら素振りをすることができます。
この時のポイントとして、基本的に自陣は元々決まったところに配置しているため自身の持ち札はさらっと覚えて、敵陣に集中して暗記することが大事とされています。敵陣から札をとって自陣の札を送り減らしていくことが重要なので、基本的に攻めの姿勢です。

暗記時間が終わったら本格的に勝負が開始し、改めて相手選手と読み手にお辞儀をして試合が始まります。自陣と敵陣の間に中心線というものがあるのですが、試合中構えているときはそれを超えないように座り、前かがみの姿勢が基本形となります。読まれていない間は構えの姿勢を崩しても問題なく、相手を妨害しないような素振りもOKです。この間もひたすらに各陣営の札を覚えていきます。
札を取った後陣営が崩れた場合には手を上げて、読み手にまだ準備中であることを伝えます。この時自分の手が空いていて敵陣が崩れているような時は下手に手を出しすぎず、静かに手を上げるのみで大丈夫です。札が飛んでしまえば速やかに取りに行く、崩れてしまったらすぐに直すというように、「静かに素早く」が試合中のお決まりになります。

また、基本的に個々の試合に審判は付きません。(試合終盤や決勝戦などごく限られたときのみ審判が付きます)
そのため、「どちらが先に札をとったのか」などの話し合いは当事者間で行うものになっています。双方の言い分はありますが、相手への敬意を忘れず具体的かつ短い主張をすることが大切です。話し合いで全体の試合を大幅に止めることはマナー違反になりますので、自分の意見が確かではないのであれば相手を信用して譲るなど線引きと引き際を見極めます。
反対に、相手があまりにも理不尽であった場合には、礼節は持ちつつ毅然とした対応をして、周りに助けを求めることも重要です。個別の審判は付かないにしても、話し合いが終わらない場合審判が来てくれて双方の話を聞いた上で判断をしてもらえます。
このような話し合いは札を読まれた後だけOKで、その読まれた札の内容のみ対象です。「さっきは言わなかったけど、」のように過去のことを蒸し返すような話は絶対にNGです。

どちらかの陣の札が全て無くなったら試合が終了で、相手と読み手に向けてお辞儀をして札を片付けます。全体の試合が続いていても個人の試合が終わればすぐに避けて、これで試合の一連の流れが終わりです。

競技かるたの魅力と注意点

競技かるたの概要を紹介したところで、この競技の面白さと実際に競技かるたをやってみよう!となった時、これだけは守りたいルールをいくつかご紹介します。

競技かるたの魅力

静と動の一瞬の切り替え

競技かるたは本当に静かな競技です。ホイッスルもなければ応援も無しです。
ただ、読み上げられたその瞬間に身体全身を使って札を取りに行く様とそのスピード感には圧倒されると思います。上手な人ほど札を取る払いの姿に無駄がなく、札一枚だけが飛んでいく様子はとても美しいです。
読み上げ直前の空気がスッと変わり、また一瞬のうちに激しく動く。それが1時間以上繰り返される緊張感は、競技かるたにしか無いのではないかなと思っています。

垣根なく誰でも平等に楽しめる

大会に出るとなると級位ごとの出場になってしまいますが、練習などは年齢性別や段位に関係なく誰とでも遊ぶことができます。何年もかるたをやっている段持ちのお爺ちゃんと戦わせていただいたこともありますが、どちらかにハンデをつけることもなく平等な立場として楽しむことができました。
身体的な部分で勝敗に大きな優位性がなく、自分自身の長所を活かすことで勝つ道筋があるというところが、競技かるたの魅力だと思います。

特別な準備がいらない

畳み目は札を並べるために必要になりますが、札と読み手(読み手がいなければCD音源というものもあります)があればすぐできます。1対1であればスペースも3畳ほどあれば十分なので、広い敷地も不要です。特別な整備や道具の準備がないので、気軽に始めやすい競技でもあると思います。

これだけは守りたいルール!

姿勢

持病や骨格上難しい人がいるとは思いますが、基本的に脛全体を見せた座り方、膝を浮かせるような座り方、足を前に出した姿勢はNGとされています。あぐらもあまりよしとはされていません。正座か少し崩しただけの状態で座るようにします。

服装

基本的には動きやすい服装であることが推奨されています。(大会によっては袴の着用が義務付けられています)
動きやすい服装と言っても、紐が揺れてしまうようなパーカーや襟ぐりの空いたTシャツ、ショートパンツ・スパッツはよくないとされています。過度に肌を見せないことや相手の気が散るような揺れるものを着用しないようにということが決められているからです。そのため、試合をやる時はシンプルなTシャツにジャージを着るようにしましょう。
私は今までジャージ2本の膝に穴を空けているので、お気に入りのものはそもそも着ないことをおすすめします。

爪やアクセサリーなど

競技かるたは指先の接触が多い競技です。そのため、相手を傷つけないように手の爪は短く揃えることがマナーになっています。ネイルが禁止とは聞かないですが、パーツを付けたりするのは同様の理由で辞めておいたほうがよいです。試合中は双方の勢いがすごいので、普通に流血します。
アクセサリーも服装と繋がりますが、相手に接触して傷つける可能性があるもの・揺れるものを身につけることは違反になりうります。結婚指輪などシンプルなものは咎められ無いとは思いますが、基本的に何も身に着けないと覚えていただいたら良いかと思います。

※その他細かい規則についてはこちらからご確認ください。
https://www.karuta.or.jp/static/kitei/20200526-kyougi_saisoku.pdf

まとめ

競技かるたについて紹介をしてきましたが、いかがだったでしょうか?
少しでも面白そうだなと思っていただけたら嬉しいです。「名人位・クイーン位決定戦」はYouTubeでの配信やアーカイブに残っているので、気になった方がいましたらぜひ見てみてください!

ちなみに、私が百人一首の中で一番和歌として好きなものが50番の「きみがため惜しからざりし命さへ長くもがなと思ひけるかな」(藤原義孝 後拾遺集 恋669)です。ざっくりとした現代語訳をすると「あなたに出会うまでは惜しくないと思っていたこの命だけど、今では少しでも長くあってほしいと思うな」という感じです。
字面だけだと中々重めなラブソングですが、藤原義孝という人物は信心深い人で、いつ死んでも後悔が無いように毎日を大切に生きていたと言われています。また、諸説はあると思いますが20歳前後と若くして亡くなっており、けして長生きをした人ではありません。そのような人物像と背景を知ると歌の重みを感じるとともに、この歌が長く世の中に残ってよかったなと思い、好きな歌として挙げてしまいます。
このように百人一首には競技性としてはもちろんのこと、和歌を楽しむという面もあります。好きな歌を見つけるといったところからでも、百人一首や競技かるたに触れてみていただけたらと思います。

それでは今回はここまで、
最後までお読みいただきありがとうございました。