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風向きをみて舵をとる

2020.10.22

マーケティング

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こんにちは、マーケティング部の松本です。
2020年10月現在、未だCOVID-19の脅威は過ぎ去らず、弊社でもテレワークを継続して行っています。社員の感染リスクを鑑み、信頼の上でテレワークの継続を決断して下さった社長には本当に頭の下がる思いです。
10月ということもあり、段々と木の葉が落ちて秋が深まって来ました。これから益々と気温が下がり、空気は乾燥していきます。昼間は夏のように気温が高いのに、夜は震える程に肌寒い日もありますよね。そんな気温の変動が激しい時期には身体も不調を来す事が増えて来ます。そういう季節柄もあり、最近風邪薬の広告を目にする機会が増えた、という方も多いのではないでしょうか。ですが、今年の風邪薬の広告事情は今までとは大きく異なっていることをご存知ですか?
今回は風邪薬の広告の変化について、延いては広告業界全般の風向きの変化について、軽くお話が出来ればと思います。若輩者の浅学な話ではありますが、お付き合い頂けると幸いです。

風邪薬の広告の変化について

近年の風邪薬の広告といえば、「どうしても休めない時に」「すぐに効く」等という類のものをよく見掛けたかと思います。定番といっても過言ではないほど、そういうキャッチコピーの広告が多く存在していました。
広告のキャッチコピーなどを考える時、多くのマーケターは「消費者の目線に立とう」とします。消費者が目にした時、一番その商品に魅力を感じるような、惹かれるような、印象に残るような広告を作成しなくてはならないので、当然ですよね。では、実際に想像してみましょう。今日はとても大事な、自分以外の他の誰にも代役を頼む事の出来ない会議があります。ですが朝起きると頭痛に鼻水、咳、発熱、身体の怠さなど、「風邪をひいた」とはっきりと自覚出来るような不調具合。今日の会議についての連絡も朝からどんどん届いています。そんな時にあなたが一番求める風邪薬は、一体、どんなものでしょうか。
……多くの方が、「その日一日を乗り切れるように、今すぐ風邪の症状を緩和してくれるもの」を求めるのではないでしょうか。「体調管理も仕事のうち」「他の社員に迷惑を掛けてはいけない」という、ある種日本人の美徳ともされる真面目さ、ストイックさから齎されるそういった義務感からくる焦燥を満たすのに、先述したキャッチコピーはぴったりですよね。

しかし、それは風邪薬を販売する企業としていかがなものか、という声は、以前から多く上がっていました。「体調が悪くても仕事をしなくてはいけない、休めない状況の後押しになっている」という批判は根強く消費者の中に存在しています。今年の2月下旬には、オンライン署名サイト「Change.org」で特定の企業に向けて、「風邪でも、絶対に休めないあなたへ」という旨のキャッチコピーを変更するよう提案する署名に1万2000人が賛同しています。署名の発起人である東京都のIT企業に勤める50代の男性は、このように語っています。

「このコピーは日本人の働き方の代名詞のようなものですよね。体調が悪くても出社することが賞賛された時代の名残りだと感じます。私も『這ってでも来い』と上司に言われ、それに違和感なく順応してきた世代です。でも、それは間違っていた。下の世代にこんな根性論を引き継いではいけない。
まして新型コロナウイルスの感染が広がっている今、このようなメッセージを企業が発信することは危険です」

そんな署名の影響があったのかは定かではありませんが、この2020年10月初旬に新しく掲載された風邪薬の広告のうち、2社の医薬品メーカーが広告の刷新に踏み切りました。それはシオノギヘルスケアの「パイロンPL」シリーズと、興和の「コルゲンコーワIB錠TXα」です。前者の広告は「風邪のときは、お家で休もう!」、後者はテレビCMの中で「大切ですよ、無理しない勇気。痛むのど風邪、つらい熱風邪、しっかり抑えて休みましょう」との表現があります。この広告を目にした消費者からは「やっと当たり前のことを言ってくれる風邪薬の広告が出る時代になった」という声が上がっています。
シオノギヘルスケアのプロダクトマネージャーは、ニュースの取材に対してこのように語りました。

「製薬各社では、『風邪の時は症状を抑えてでも頑張る』というメッセージを今までずっと出してきており、消費者の方への配慮が不足していました。ツイッターでは『ここまでくるのにかなり時間がかかったな』とのコメントがありましたが、私たちもそのように思っております」

このような広告の刷新に踏み切ったことには、COVID-19の影響も少なからずあると推察できます。体調の悪い中、無理をして家を出て電車に乗り、出社して仕事をしてしまうと、場合によっては感染が拡大してしまうリスクが非常に大きくなりますよね。だからこそ、今。今更、とも言えますが、「体調が悪いときは家で休もう」というメッセージが、自分自身の身体はもちろん、周囲のみんなを守るためにこそ大切なのだと、社会の風向きが変わってきているのかもしれません。

「ニーズ」と「正しさ」

では、今までの風邪薬の広告は、批判されるべくしてされたものだったのでしょうか?そんなことは決してありません。「早く効く」風邪薬は消費者に求められるものであり、それは消費者のニーズに適しているものだからです。広告を考える時、誰だって消費者の目線に立ち、ニーズに合ったものにしようとします。ですので、この場合、そもそもの原因は消費者側の「ニーズ」自体にあったと言えます。風邪を引いた時、求めるべきは「その日一日を乗り切れるように、今すぐ風邪の症状を緩和してくれるもの」ではなく、「体調が悪い時はしっかりと休める環境」でした。それが正しいニーズであり、社会としての「正しさ」なのではないでしょうか。
ですが、「正しさ」を叶えるのは容易な事ではありません。実際、COVID-19の感染拡大によって、「体調が悪い時はしっかりと休める環境」の少なさが浮き彫りになったかと思います。それでも、今回の風邪薬の広告の刷新の影響で、少しずつ、風向きは変わり始めています。体調が悪いときは休む、それが当たり前なのだと広く認識されること。無理をすることは本当に切羽詰まったときの最終的な手段であり、第一段階ではないのだと、これから社会全体の意識が少しずつ変わっていく事でしょう。

これは、風邪薬に限った話ではありません。
情報の主権者が消費者になったと言われているこの時代に、「正しいニーズ」に適さない広告は、今後淘汰されて行く事になるかもしれません。実際、Youtubeで流れている一部の広告に対し、配信停止を求める署名活動が起きているのをご存知でしょうか?
オンライン署名サイト「Change.org」では、Youtubeで流れる体型や体毛等と人間性を関連付けて侮辱し、その克服の為と銘打つ商品の広告に対して配信停止を求める署名が、既に4万5千人以上から集まっています。こうした消費者の声に対し、企業側は無関心でいられるでしょうか?

終わりに

SNSやオンライン署名サービスなど、今の時代では消費者が声を上げる事が可能な場が非常に増えて来ています。それは今後変わることなく、益々と大きくなっていくでしょう。そんな中で私たちマーケターは、「正しいニーズ」に合った広告を配信することを求められます。「消費者から一番求められていること」が「正しい」ことなのか。実際はそうだとしても、それは企業として「正しい」発信なのか。そういったことを適切に見極める能力こそ、今後マーケターを育てる企業の一番の「ニーズ」なのかもしれません。
最後に、今回のブログの表題である「風向きをみて舵をとる」ですが、中国の諺である「看风使舵」からお借りしました。今後の社会全体の、そして広告業界の風向きをしっかりとみて、広告を運用していかなくてはいけないという自戒も込めて。

少々短い内容となってしまいましたが、お付き合い頂きありがとうございました。
今後とも、MEプロモーションをよろしくお願いいたします。